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東京地方裁判所 昭和33年(刑わ)1225号 判決 1961年1月16日

被告人 久保正雄 外三名

主文

被告人久保正雄、同山田幸雄を夫々懲役一年に、同浪岡重一を懲役四月に、同渡辺武男を懲役八月に夫々処する。

但し浪岡重一、渡辺武男に対しては孰れも本裁判確定の日から夫々三年間右刑の執行を猶予する。

山田幸雄から電気冷蔵庫(米国ウエスチングハウス社製)一台、浪岡重一から背広一着(昭和三三年東地庁外領第一九六二号の一)を夫々没収する。

山田幸雄から金五十五万円を、渡辺武男から金十九万円を夫々追徴する。

偽造に係るアングロ・カリフオルニア・ナシヨナルバンクの預金残高証明書(昭和三三年証第一四二二号の一―一〇の内該当部分)は没収する。

訴訟費用中証人市川清、内山正、柳沢辰枝(一、二回)佐藤国光、佐藤恒夫(一、二回)島根清之助、通訳人逸見益宏(一、二回)に支給した分は久保正雄の負担とし、証人山下常太郎(一、二回)に支給した分は山田幸雄の負担とし、証人小室亀夫(一、二回)証人伊東信英(一、二回)に支給した分は浪岡重一の負担とし証人富永悟郎に支給した分は久保正雄と浪岡重一の平等負担とする。

尚本件公訴事実中「被告人久保正雄が浮岡重一に対して(イ)昭和三一年八月中旬頃前記東日モータース株式会社事務所に於て現金五千円を(ロ)同年九月下旬頃東京都千代田区内幸町二の二富国ビル前路上に於て現金二万円を(ハ)昭和三二年一月下旬頃前記東日モータース株式会社事務所に於て現金一万円を、いづれも職務に関して供与して贈賄し、被告人浪岡重一が右(イ)(ロ)(ハ)の通り供与せられるやその情を知り乍らこれを収受し以て収賄したとの点はいづれも無罪。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人久保正雄は

(一)  東京都中央区銀座東七丁目二番地に事務所を有し、中古自動車の販売等を業としていた東日モータース株式会社の代表取締役であつたが、昭和三〇年頃には所謂外車輸入には強い制限があつて、一般人は入手困難であつたことから高値を呼び、当時許されていた僅かな例外的方法として、外国人等から名義を借りて無為替輸入名下に米国製自動車を輸入して転売すれば巨額の利益が得られた為、偶々弟久保幸雄の紹介で知合つた米人チヤールス・ジヨセフ、ゲルハート・ジユニアがサンフランシスコの自動車販売会社オートプロキユアメントサービス等の代理店と称して駐留軍人、軍属に新車を販売することを業としていた関係上新車の入手及び輸送等に種々便宜を有し而も自己の事務所の一部をゲルハートに使用せしめていたので、これと共謀して所謂無為替輸入(フオームC)の方法に依り新車を輸入して転売せんことを図り、通商産業大臣に無為替輸入承認申請を為すに際し、その申請名義人が米国の銀行に外貨預金がありこれを以て輸入自動車代金の弁済に当てることを証明すべき外国銀行の預金残高証明書を偽造しようと企て、行使の目的を以て、昭和三〇年暮頃情を知らない市川清を介して同区銀座東二丁目一七番地有限会社平野印刷所に於て、アングロ・カリフオルニア・ナシヨナルバンクの銀行名を冒用して同銀行の残高証明書用紙百枚位を印刷せしめ、同年一二月頃前記東日モータース株式会社事務所に於て、右残高証明書用紙に英文タイプライターを使用してホーカン・ヘツドバークの同年一二月一日現在に於けるアングロ・カリフオルニア・ナシヨナルバンクの預金残高が五七〇九弗四七仙なる旨相当欄に打字し、以てアングロ・カリフオルニア・ナシヨナルバンク名義のホーカン・ヘツドバークに対する銀行預金残高証明書一通を偽造し、昭和三一年一月一二日頃同都千代田区霞ヶ関三丁目四番地通商産業省に於て、ホーカン・ヘツドバーク名義の外国自動車無為替輸入承認申請書に添付してこれを通商局輸入第二課係員に対し、真正に成立したものの如く装つて提出して行使した外別紙甲一覧表記載の通りアングロ・カリフオルニア・ナシヨナルバンク名義の各外国人の銀行預金残高証明書を夫々偽造し且つ同表記載の各日時頃通商産業省に於て前記担当課の係員に対し夫々真正に成立したものの如く装つて提出して行使し

(以下省略)

たものである。

(証拠の標目)(略)

(弁護人及び被告人等の主張に対する判断)(略)

(法令の適用)

法律に照すに判示所為中第一の(一)中各預金残高証明書偽造の点は刑法第一五九条第三項第六〇条罰金等臨時措置法第二条第三条に各同行使の点は刑法第一六一条第一項第六〇条罰金等臨時措置法第二条第三条に、第一の(二)、(三)(イ)(ロ)は刑法第一九八条第一九七条第一項前段、罰金等臨時措置法第二条第三条に第二、第三、第四は夫々刑法第一九七条第一項に該当するところ久保の各預金残高証明書の偽造と行使は夫々互に手段結果の関係にあるので同法第五四条第一項後段第一〇条に従いいづれも犯情重い偽造私文書行使罪の刑に従うべく、尚偽造私文書行使罪、贈賄罪についてはいづれも、懲役刑を選択して処断すべきところ久保、山田、渡辺の所為は同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条本文第一〇条を適用し久保については山田に対する別表乙七号の贈賄罪の刑、山田については別表乙七号の罪、渡辺については九月上旬の収賄罪の刑に夫々併合罪加重した刑期、浪岡については所定刑期範囲内で夫々主文の通り量刑し(久保及び山田については犯行全体の規模から見て執行猶予に付すべき情状はないと考える)尚浪岡については収賄額も余り多くないし渡辺については改悛の情も顕著であるし初犯でもあるので同法第二五条第一項に則り夫々三年間右刑の執行を猶予し尚同法第一九七条の五に則り夫々主文の通り没収又は追徴し訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文に則り主文の通り負担させるべきものと認める。

(尚検察官は預金残高証明書の偽造行使につき、他人の署名又は印章のある場合として刑法第一五九条第一項を罰条として掲記したが、証拠物たる預金残高証明書を見るに、印章の押捺はないし、署名に準すべき記名捺印もなく、単にアングロ・カリフオルニア・ナシヨナルバンクの預金残高証明書であることを示す不動文字の印刷があるに過ぎないから刑法上は他人の署名又は印章の押捺のない事実証明文書と見るが相当であり、この点について特に訴因の変更は必要でないと認める(防禦に消長のない縮少であるから)ので第三項を適用した)

(以下省略)

(裁判官 熊谷弘)

(別表甲、乙略)

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